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 disc review 

どうしようもないリアルを生き抜くための、傷だらけの愛の歌

1stミニアルバム『Anchors is Mine』から約10ヶ月を経て、このたびリリースされる2ndミニアルバムの名は『Almost Famous』。初の全国流通盤ということもあってか、自己紹介のように様々なタイプの曲を収録していた前作に対し、本作は「歌謡曲を基盤にしたロックサウンド」という方向性で統一されている。GRAPEVINEやNICO Touches the Walls、椿屋四重奏らに強い影響を受けてきたという自身のルーツにあるサウンドに還った印象だ。それによって元々このバンドが持っていた特色――阿部将也(Vo.Gt)の艶っぽい歌声や節回し、陰を感じさせるコード進行や曲展開など――がしっかりと活かされるようになった。本格的に活動を開始した2014年、『Anchors Is Mine』をリリースした2015年……と、近年の経験を通して確かな鍵が見えてきたからこそ、このような作品を発表しようという心持ちになったのではと思う。

 

冒頭を飾るのは「Good Night Mrs. Moon」。疾走感溢れるサウンドを空へと願いを放つような歌声で以って“君の痛みが僕の光”で“僕の痛みが君の光”という報われない現在地を暴くと、心拍数を上昇させるように少々テンポアップして「B with U」へ。ジャズテイストのベースラインと適度に軽快なビートが耳に楽しい同曲は、決して明るい曲調ではないが、独特の昂揚感はライヴでも既に効力を発揮しているという。ヴォーカルとギターのメロディラインが緩やかに絡み合う「マガイモノ」では、ある人がついた嘘が誰かにとっての真実になることもある、という真理を唄っていく。そして4曲目の「真夜中」が本作のハイライトであろう。阿部が書く歌詞には「相手を求めるほど孤独に陥ってしまう」というある種のねじれが常に存在しているのだが、その捻くれた性格のなかに潜む柔らかな優しさがこの曲に表れている。とはいえバラードで綺麗に幕を閉じるのではなく、また、甘くて苦い過去に浸り続けるのではなく、心を掻き乱す混沌とした感情とともに生きる今を「farce」に託しているのが良い。「僕」がどれだけ足掻いていようとも、そのサマを「笑劇」と名付けてしまう皮肉めいたセンスにもニヤリとさせられた。

 

――と、収録曲を駆け足で紹介させていただいたが、まるでひとつの物語を構成するように並べられたこの5曲を聴いていると、ヒリヒリとした感触が胸の内側に迫ってくる。初めに書いたように「歌謡曲を基盤にしたロックサウンド」というバンドの原点に還っているのが本作の特徴だが、ミュージシャンにとってのルーツミュージックといえば、拭っても消えない性(さが)であり、その身体に絶えず流れる血液のようなもの。バンドの幹とかなり近いところで音を鳴らすことにより、声にならない感情があるから歌を唄う、どうしても器用に生きられないから想いは全部音楽に変える、というロックバンドとして最も健全な姿を手に入れることができたのだ。

 

消えない傷の存在から目を逸らさないこの音楽は、あなたの胸に刺さって抜けない過去の存在を暴いてしまうかもしれない。しかし、その痛みすらもいつかの愛に基づくものだと唄う孤独なラブソングは、あのとき救えなかったあなたの想いをそっと掬い上げてくれることだろう。誤魔化しのない感情と向き合いながら、そうやって足掻きながら音楽へと向かっていくこのバンドの姿が、いよいよ見えてきたところだ。

▶執筆者

 蜂須賀ちなみ(HP: http://8sukasuka.wix.com/enjii)

LINE wanna be Anchors

『Almost Famous』

▶収録曲

1.Good Night Mrs.Moon

2.B with U

3.マガイモノ

4.真夜中

5.farce

▶商品情報

発売日:2016年06月29日

価格:¥1500(+tax)

品番:4ON6-0003

販売元:PCI MUSIC

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